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ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは何か

■ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは

  先日、年末にに某所で担当した「ダイバーシティ推進研修~多様性を組織の力に変えるために~」(3時間)アンケートが送られてきました。一昨年に続き、2回目。感染症対策のため、講演方式を指定されましたが、理解度、実践度も高かったようで、大変嬉しく拝読しました。「職場で共有する」という方、「実践として仕組みに落とし込む」という方、皆さんの反応は私にとっても励みになります。「昨年の受講者に進められた」という方も複数名いらっしゃいました。

 

 一般に、ダイバーシティ&インクルージョンとは、以下のように定義される概念です。

「単に多様な価値を受容するのみでなく、多様な属性や価値・発想を取り入れることで、環境変化に迅速に対応し、組織と個人のしあわせにつなげようとする戦略」

 

 ダイバーシティが、尊厳ある個人として、その人そのものを価値あるものとして認める、いわば基本権の確立の一側面であるのに対し、ダイバーシティ&インクルージョンは(基本権としての性質をベースとすることは当然の前提としながら)組織の経営戦略の一環と位置付けられます。                                     ※なお、経済産業省「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」

 

■ダイバーシティ&インクルージョンで伝えたかった3つのこと

1.ダイバーシティ&インクルージョンは、ワークライフバランスの実現、働き方改革と密接に連動する

 企業において、働き手個々の事情を尊重するターニングポイントになったのは、女性活躍推進法が成立した2015年。そのすぐ後、女性活躍との関連で、ワークライフバランスをとることが急務とされてからです。

2015年以前の組織は、概ね「仕事は仕事、プライベートはプライベート。どう調整するかは、各自が決めてください」というスタンスでした。

しかし、女性活躍・WLBの実現という変化は、職場に「仕事と私生活の調整機能」を求めるようになりました。時短で働く者がいても、育休をとる者がいても、その穴埋めは、職場で何とかすることが求められるのは、その証左です。

 

プライベートの様々な事情を尊重しながらも働き続けられる組織・職場を作ることは、子育て世代のみならず、親の介護が現実味を帯びてくる50歳代の世代にとっても重要なことです。大介護時代(2025年問題)は、すぐそこまで来ています。

 

ダイバーシティというと、とかく理想論と思われがちですが、多様な事情を尊重しながら働くことが求められる我が国にとっては、すぐそこにある危険に対応するための喫緊の課題そのものなのです。

 

2.「ダイバーシティ&インクルージョンは、単なる理念ではない」(認識・尊重から仕組み・行動実践へ)

谷口真美氏(早稲田大学商学学術院教授)は、ダイバーシティを、表層的・深層的の2つのに大別されます。

 ・表層的ダイバーシティ:性・障害・年齢・人種等外観からわかりやすい要素のダイバーシティ

 ・価値観・考え方・信条等、外観からはわからない要素の(内面的な)ダイバーシティ

 

 内外環境の変化が激しい不確かな時代の組織(職場)内では、叡智の結集を図らなければなりません。属性の多様性(表層のダイバーシティ)を受容するとともに、思考の多様性を力に変えていくことが重要です。一人による決断から多様なメンバーの対話による決定へ、ひとりの成功体験による判断から現場意識を取り込んだ全体の決断へ。その前提として、多様な思考・価値が表明される心的安全性のある職場運営が求められます。

メンバーが理性的に対立し、組織(職場)の在り方や仕事の仕方をともに考える職場に変えていくことは、ダイバーシティ&インクルージョンの実現過程そのものです。

 

3.理念と実践を繰り返し、理念を修正するとともに行動を深化させる

 研修は、マネジャー層から現場の方々まで、手上げ制の研修でしたので、特定の階層のみに偏ることなく必要なことを述べさせて頂きました。

職場経営の責任者はマネジャー層であっても、内外環境に対応する理想の職場を作るのは、職場のメンバーそれぞれです。問題はありません。

  

 アンケートからも受講生の方々が、私の話した、職場に起こる問題への対応事例・エピソード、マネジャー層にとってもらいたい言動、職場の仕組み・見える化ツール等について、肯定的に反応してくださっているのがわかりました(ちなみに、業務平準化のためのツールや仕事の管理の手法まで話しました)。

 

  私たちがその内におり、利用し・利用される組織や実践している活動とは、「現実から抽出された理念に従い、理念を具体化しながら現実を動かし、理念をも変えていくプロセス」を循環させる活動の過程そのものです。経営学は、実学として、日々の組織活動自体を対象としています。ダイバーシティ&インクルージョンというテーマの講演も、ダイバーシティ&インクルージョンという光源から照射して、組織活動全体を俯瞰する必要がある、と考えています。

  

■最後に 

 先日送っていただいたアンケート記述欄には、「単なる理念・理想論ですよね」という声がひとつもなく、日々の業務に結びつけて具体的に考えてくださっている声ばかりであったことを嬉しく思います。

 

  ダイバーシティ&インクルージョンは、単なる理念ではなく、実践の過程そのものです。

この文章の初めに「ダイバーシティが、尊厳ある個人として、その人そのものを価値あるものとして認める、いわば基本権の確立の一側面であるのに対し、ダイバーシティ&インクルージョンは(基本権としての性質をベースとすることは当然の前提としながら)組織の経営戦略の一環と位置付けられます」と書きました。

 

言い換えれば、ダイバーシティ&インクルージョンの実践は、個人の尊重と組織の発展の両方を模索する活動です。

 

多くの方に理解し、実践していただきたく思います。

 

組織開発コンサルタント 

後閑 徹