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相談業務から考える仕事・仕事効率化の意義

■はじめに
先日、ある福祉事業団のマネジメント層の方々を対象とした研修を行ってきました。
研修は、ご要望を反映し、職場運営の方法や困難事の共有と解決策の策定を中心に進めました。

途中、仕事の管理手法として、優先順位の決め方、進捗管理や仕組み作りの必要性等も織り込みました。その中で、ひとつひとつの仕事の工程を見える化し、求められる水準を最も早く実現できる工程に揃えることの重要性の話もしました。昼休みと終了時の質疑応答の時間に、この点についての疑問が呈されました。

■相談業務は管理できるのか
ご質問は、相談業務は非定型的業務であり、被相談(応談)者の個人的スキルに依存するため、定型的業務を前提とする仕事の管理手法は妥当しないのではないか、という内容でした。 

相談業務は、確かに、相談者の相談内容や置かれている状況、被相談(応談)者のスキルに依存する部分が多く、業務時間を確定することは難しいでしょう。また、聴くことによる不安・不満の解消自体が重要という相談業務の本質からも、一律に時間を決めることは難しかもしれません。

しかし、果たして、そう簡単に割り切ってしまって良いでしょうか。
相談業務は、
 ① 把握すべき情報を聞き出し、情報を付与する仕事
 ② 不安・不満に寄り添い、負の感情を解消してもらう仕事
に分けられるのではないでしょうか。

① 把握すべき情報を聞き出す仕事については、フロー図の作成や聴きとる際のフォーマットを作成することで、ある程度は定型化・効率化すべきです。

② 不安・不満に寄り添い、負の感情を解消して頂く仕事について、個人のスキルに任せきりにしていないでしょうか。確かに、その人の性格や醸し出す雰囲気等、個人の資質に大きく依存する仕事であったとしても、それが自己満足に陥っていないか、より良い対応の仕方はないか、を職場で考え、共有することはすべきでしょう。「不安を感じている相談者には、こういう言葉がけや順番が良いようだ」、「なかなか決断できない方には、決断すべき事柄を紙に書いて見せておきながら、感情に応ずると良い」等、現場で身につけた各々の技術を共有する時間・場を作る必要があると思います。

 

仕事の管理を考える場合、最も難しいのが、属人的(当人のスキル・知識に依存する)&非定型的(各人がバラバラな仕方をする)仕事です(左下)。
ともすれば、自己流の仕事になり、サービス提供レベルも一定せず、所要時間もまちまちとなる危険があります。また、様々な不祥事が起こりがちな象限のため、リスクマネジメント上も放置することはできないはずです。

ポイントは、2つ。
「非定型的な仕事を、どこまで最低限のサービスレベルとしてそろえるか=右に移行させるか」
「属人的なスキル・知識を、どこまで共有するか=上方に移行させるか」

これを判断できるのは、現場の担当者です。担当者が頻度を決めて集まり、上記2点を話し合い、
共有する場を設けることが不可欠と思います。

※看護師の方々からも同様のご質問を受けたことがあります。
 ドクター・事務方も巻き込んだ、より大きな仕組みが必要ですが、ベースは同じです。
 ※本稿では、ここまでとしますが、残りの3つの象限もどのような問題があるか、是非、考えてみてください。
 ちなみに、仕事を全て、非属人的&定型的(右上)にすれば良い、というのも、私は違う、と考えています。

■何のための効率化か
私の回答に、質問してくださった方々やその他の方々も、頷いてくださいました。確かに、サービスレベルがバラバラで、スキルを共有する場の必要性をご理解いただいたからだろうと思います。

しかし、帰りの新幹線の中で私が感じていたのは、自分の口から出た言葉への違和感でした。
それは、相談者の気持ちに寄り添うという福祉に従事する方々が大切にしている点を、技術(スキル)の面からのみ切り込み、回答した点にあったことにすぐ気が付きました。あたかも効率性という一つの価値に過ぎないものを、当然の実現すべき唯一の価値であるかのように解説してしまったことへの反省です。
私は、回答の先に、「何のための効率化か」を問いかけるべきでした。仕事は、仕事の成果をだすためだけにするものではないからです。
それは、相談者の人生への心情的支援であったり、組織への貢献であったり、自己の能力の確認であったり、後輩や部下への教育であったり、課題への挑戦や自己成長の過程そのものでもあります。

仕事の管理法に基づく効率性の追求が仕事の本質であったなら、それは無味乾燥な作業と何も変わりません。先のご質問を受けた際に、この点をともに考える必要がありました。

その時間をとることで、仕事の管理は、時間捻出による他の「大切にする価値」を実現する手段として位置づけられることとなったはずです。そして、その時間は、仕事を管理すること自体を目的化することを避け、仕事の多様な意義をもう一度確認することに繋がったのではないでしょうか。

■働き方改革≠時間短縮
働き方改革が実現すべき課題として設定される現在、タイムマネジメントや業務改善の必要性が叫ばれ、事実、そのようなご依頼を多く受けています。
しかし、私たちの仕事は、効率性だけを唯一の価値としている訳ではありません。効率性やこれを含む実効性を高めながら、仕事を通じて得ようとする多様な価値の実現を如何に図るか、ともに考える必要があります。

働き方改革の真の意味を、働く現場で、それぞれの価値観に照らし合わせて考えることを忘れてはならない、と再度肝に銘じるこの頃です。

※以前、某所で書いたコラム。一部、手を加え掲載します。2017年初出。今も考えなければならない内容です。


 

組織開発コンサルタント 後閑徹