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他人の靴を履いてみる/男性の育休取得/戦略としてのダイバーシティ&インクルージョン

■エンパシーの必要性 
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ 新潮社

Put yourself into the other person's shoes. 
他人の靴を履いてみよ

シンパシーは「かわいそうな立場の人や問題を抱えた人、自分と似たような意見を持っている人々に対して人間が抱く感情」、つまり「感情的状態」ですが、エンパシーは「自分がその人の立場だったらどうだろうと想像することによって誰かの感情や経験を分かち合う能力」、つまり「知的作業であり、それができる能力」



アイルランド人の夫と元底辺校(中学校)に入学した11歳の息子との生活を通して、英国労働者階級の実態をレポートする本書。ダイバーシティ&インクルージョンの難しさを知ると共に、生活の中で起きていることを「考える」重要性を再認識させられます。

息子さんがこんなことを言います。

「EU離脱やテロリズムの問題や世界中で起きているいろんな混乱を僕たちが乗り越えていくには、自分とは違う立場の人々や自分と違う意見をもつ人々の気持ちを想像してみることが大事なんだって。つまり、他人の靴を履いてみること。これからは、『エンパシーの時代』、って先生がホワイトボードにでっかく書いたから、これは試験に出るなってピンときた」



日々の生活の中で、他人の痛みに思いを致すことを、私たちは自分自身に課する必要がるのではないでしょうか。ダイバーシティは、企業の戦略である前に、「個人が個人として、尊厳ある存在として尊重されるもの」という基本権であることを忘れてはなりません。

母と子の「ダイバーシティって面倒だね」「でも、無知であるよりはいいよね」という会話は、ダイバーシティの本質を突いた言葉です。

さて、私たちは、「個人が個人として尊重されるべきである」という当然の振舞いを、組織の中でしているでしょうか。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー [単行本]


■戦略としてのダイバーシティ&インクルージョン
女性活躍推進を含め、ダイバーシティ&インクルージョン(包摂)の話をする際、このエンパシーの話を入れています。最近、ご要望の多い男性の育児休暇取得の話の中でも。

現在、どちらかといえば否定的に語られる傾向のある男性の育児休暇取得ですが、「他人の靴を履いてみる」ための良い機会です。経験することが全てではありませんが、経験してみなければわからないこともあるでしょう。
その際、当人は、これまでの自分の仕事の仕方、他者との関係性を顧みることが大変重要です。多くの企業でやっている、経験を記述してもらい、社内報にて共有させるという施策は、社内に個人の経験を伝播させるのが主たる目的でしょうが、これは、ご本人にとっても大変良いことです。言語化をする過程で自分の行動に意味が付与され、認識が深まるからです。

一方、企業は、育児休暇取得をした男性の経験を、仕事の仕方、職場の関係性の改革や組織変革に変換するための仕掛けを作る必要があります。生産年齢人口の減少や生産性の向上、外部環境の変化に対応し、多様な価値・人を経営に取り込む「戦略」としてのダイバーシティ&インクルージョンの折角の機会を喪失しないために。

■危機をチャンスに
私が携わった働き方改革プロジェクトでは、多くの社内施策が立ち上げられました。営業活動の見直し、バックヤードとの関係や仕事の仕方の見直しが行われました。オリンピック会場に近いその企業では、オリンピック期間を見据えて、テレワークやサテライトオフィスも始動させました。

最近は、コロナウィルスの蔓延をきっかけに時差通勤・フレックス、テレワークが進んでいる企業も増えてきています。災い転じて福となす。危機をチャンスに変える力を、私たちは、まだまだもっています。

男性の育休取得の義務化の議論も、「育休などとってやっていけるか」という後ろ向きの議論でなく、「やることを前提にどう社内を変えていくか」を考える機会となることを望みます。
好むと好まざるとに関わらず、私たちは変化に対応しなければ生きていけないのですから。

組織開発コンサルタント 後閑徹

合同会社21世紀組織開発コンサルタンツ